【作品解説】「命の環-white&black mosir-」
※こちらでは2019年7月1日から9月29日に札幌駅直結に位置するJRタワーホテル日航札幌のロビーギャラリーで行われている個展の作品解説をしております。
ネタバレが含まれますので、展示ご覧になった後に見るのをお勧めしております。
ロビーギャラリーでは毎年4名のアーティストを選出し、年間を通して展示が行われております。
【タイトルについて】
アイヌの人々は動物達を神様としておりました。
人々が獲物を狩るということは神様が動物の姿になり恵みを与えている、そしてそれを得た人々は祈りを捧げて感謝するのです。
現代の社会でも同じことが言えます。
動物も自然も人間も、それぞれが影響しながら絶妙なバランスを保っていましたが、それは今崩れようとしています。
遠い国の動物がいなくなった時に、自分には関係ないではなく、生態系を巡り巡って必ず影響があるのです。
与えたり、受け取ったりしながら命の循環の中で生きているこの世界のことを、動物たちが見つめるその先を想像しながら考えていただけたらと思います。
mosirはアイヌ語で世界を意味しています。
【作品解説】
『銀の光降る夜に』
800㎜円形 墨 ジェッソ(下地) 木製パネル
今回の展示ビジュアルにもなっている作品。
シマフクロウを大きく描き、背景には知床の大地と月を描きました。
タイトルはアイヌ神謡集の『銀の滴降る降るまわりに』からとっています。
人が立ち入らない領域だから育まれてきた生き物たちの世界を見つめるシマフクロウは何を想っているのでしょうか。
月をよく見ると銀の墨汁を使用しています。
『旱に雨』
1570㎜×750㎜ 墨 胡粉 屏風
屏風に描かれたオオカミの作品。
「ひでりにあめ」と読み、待ち望んでいたことが、やっと実現することのたとえ。
日照り続きの時に降る待望の雨という意味があります。
チャンスはいつ自分の身に降り注ぐのか分かりません。
いざ降って来た時に自分が一歩踏み出すことが出来なければそれは恵みでなく、ただ身を濡らす雨になってしまいます。
駆け出すオオカミは雨をただ待つのではなく、雨を置き去りにするかのように進んでいます。
『神威』
1940㎜×970㎜ 墨 ジェッソ(下地) 胡粉 木製パネル
今回のメイン作品であるヒグマの作品。
大地に住む動物の王者として存在するヒグマですが、実は警戒心が強く、人も避けています。
群れを持たず、縄張りを持ち子育てをするメスに対し、オスは生涯森の中を進み続けます。
本当の強い存在というのは「強さも弱さも兼ね備えたもの」なのかもしれません。
実際に知床に訪れ、船からその姿を捉えました。
また知床から降り注ぐ「カムイワッカの滝」をイメージして背景を描きました。
『春の雪』
450㎜×1200㎜ 墨 ジェッソ(下地) 胡粉 木製パネル
一見冬景色の様に見える作品ですが、春から初夏にかけてをイメージしたキツネの作品です。
漂う白い物体はポプラの綿毛を描きました。
実際に札幌に滞在している時に目にした街中に溢れる綿毛がまるで雪の様に感じ、現像的な風景だったので描きたいなと思いました。
ポプラの学名「Populus」には「震える」という意味がありますが、新しい季節の始まりは不安なことも確かにあります。
しかしそれ以上に自由なこともたくさんあります。
少し不安げなキツネですがポプラの花言葉の「勇敢」になれるように、眼差しはしっかりと描きました。
『蝦夷の地』
1167㎜×1167㎜ 墨 ジェッソ(下地) 木製パネル
エゾシカ、エゾリス、そして背景には蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山を描きました。
手前に樹木を配置し、奥に光を浴びるシカの構図は幻想的な雰囲気があり、溢れる緑の中に息づく動物たちを生き生きと照らしてくれるように感じます。
動物や自然との距離が近い北海道の空気感がこの絵を描くきっかけとなりました。
『一陣の風』
1167㎜×1167㎜ 墨 ジェッソ(下地) 木製パネル
冬の流氷の上を翔けるオオワシの作品。
実際に冬の流氷は今回は目に出来ませんでしたが、オオワシの雄大な飛翔する姿を描きたく円山動物園に通いスケッチや写真を撮ってきて想像を膨らませました。
飛ぶ姿の構図はいろんなパターンを描き悩みながら描いたので、決まった時は正に風が吹くようにバシッと閃きました。
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